その他のトラブル
家族の一員としてペットを飼う人が近年増えていますが、それとともにペットに関するトラブルも増えています。
では、このペットトラブルについて、どのように対処していけばよいのでしょうか、以下解説していきます。
ペットトラブルにはペットが被害の原因になる場合と被害の客体になる場合があります。このうちペットが原因となって近隣住民に被害を及ぼす場合として多いのは次のものです。
ペットは飼主にとってかけがえのない存在ですが、被害住民は場合によって日常的に耐え難い苦痛を強いられかねません。そこで両者の調整をはかるためのアプローチの方法としては、トラブルを防止するための事前規制と、実際に被害が発生した場合の事後処理が考えられます。これらについて、以下解説していきます。
あらかじめトラブルを回避する方法には、法律による規制と法律以外のルールによる規制があります。
民法718条では、動物の占有者またはそれに代わって管理する者はその動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負うことを規定しています。
この責任は一般不法行為責任より重いものとして扱われています。すなわち、一般不法行為では被害者側が加害者の過失を立証しなければ損害賠償請求できませんが、本条では「動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をした」ことを動物占有者側で立証しなければ、過失ありとして損害賠償の責任を負うことになります。
同法7条では、動物の所有者または占有者は人に迷惑を及ぼすことがないようにするという努力義務が定められています。
努力義務、すなわち「遵守できるよう努める」という意味しかありませんが、差し止め請求や損害賠償請求といった法的責任を判断する際には考慮されます。
同法1条12号によると、正当な理由なく飼い犬などを解き放したり逃したりした場合には処罰されます。
また、1条14号では、公務員の制止をきかずに静穏を害し近隣に迷惑をかけた場合についても処罰する旨を規定しています。生活騒音にあたるペットの鳴き声については、この規定によって、まず警察官などに制止してもらうことを検討します。
悪臭問題は、臭いのとらえ方が個々人で差があり、感覚的であることから全国一律の規制はされておらず、都道府県知事及び市長が、規制地域と規制基準を決めることになっています。また、同法では刑事罰まで用意されている点で強力な規制といえますが、対象となるのは事業者だけであり、個人は規制を受けません。
もっとも個人が主体となる場合であっても、規制基準を超えるときは、損害賠償請求などの法的責任を判断する際の考慮要素とされます。
自治体によっては生活騒音に関する条例(東京都「都民の健康と安全を確保する環境に関する条例」など)や、危険動物の飼育について知事の許可を必要とする条例(「東京都動物の保護および管理に関する条例」など)があります。これらの条例を根拠に行政指導をしてもらうことが可能な場合もあります。
分譲マンションでは個々に管理規約が定められています。その中に規定されているペットの飼育禁止条項や飼育方法の制限条項に違反して、住人の「共同の利益」に反すると判断された場合には、他の住人全員または管理組合は、その行為の停止、除去、予防のための措置を取ることができます(建物の区分所有等に関する法律)。
それでも問題が解決しない場合は、区分所有者及び議決権の4分の3以上の賛成で、当該住戸の使用禁止や退去を請求(裁判による)することも可能です。
賃貸借契約においてペット飼育禁止や飼育方法の制限に関する特約を設けることがあります。賃借人がこれらに違反して、その結果、賃貸人との信頼関係が破壊されたと認められるに至った場合には、賃貸借契約の解除が可能になります。
法律や事前に定めたルールによってもトラブルを回避できなかった場合、被害を食い止めると同時に損害賠償請求を検討するのが一般的です。その際、判例で広く採用されている考え方が「受忍限度」です。
受忍限度とは、私たちが共同生活をおくる上で一般に我慢しなくてはならないとされる範囲をいいます。この範囲を超えると違法行為と判断され、差止請求や損害賠償請求の根拠となります。逆に、超えない場合には「お互い様だから我慢すべき」という判断に繋がります。
具体的事案に応じて、多くの事情が「受忍限度」を判断するための材料となります。
また、受忍限度を超えるかどうかは被害者の主観ではなく、裁判所が想定する一般人を基準とします。したがって複数の住民から苦情が出ているという事情があれば、受忍限度を越えて違法と判断されやすくなります。
近隣関係にある住民同士が、ペットをめぐっていきなり裁判で対決という処理は現実的ではありません。まずは、当事者で話し合い、解決しない場合には第三者を仲介させ、最終的に裁判へと発展していきます。
被害者が苦痛を感じていることに飼主が気づいていない場合もあります。したがって、まずは当事者で話し合うことから始めましょう。
その際には管理会社や自治会にあらかじめ相談しておくとよいでしょう。掲示や回覧板などで他住民に注意喚起して、同種の悩みで困っている住民が複数いるとなれば管理会社などによる素早く対処を期待できます。また、被害内容によっては警察や役所に相談することもありますが、いずれの場合にも感情的にならず冷静に話し合うことが重要です。
各弁護士会が設けている裁判外紛争処理機関(ADR)に仲裁を依頼することができます。扱う事件に制限はなく、平日以外の期日設定も可能で低コストで利用できる手続です。
ただし、合意が成立することを前提とした手続であるため、争いが激化して合意が困難な事案には不向きです。
調停も話合いによる解決を目指す手続ですが、個別の交渉とは違って中立の立場にある調停委員が間に入ることで、冷静に問題を整理することが可能です。
合意がまとめられた調停調書には確定判決と同一の効果が認められるので、実効的な紛争解決が期待できます。しかし、合意の成立を要件とすることから、ADRと同様、対立が激しい場合には不向きです。
話合いで解決できない場合、裁判で決着をはかることになります。特に実害が発生しており、なおも増大し続けているのに相手が迷惑行為を止めないなどの悪質な場合、行為の差止めや損害賠償請求するためにも、裁判手続の検討が必要です。
ペットをめぐるトラブルにはさまざまなものがあります。感情任せに詰め寄って近隣住民との関係が悪化するのは好ましくなく、かといって、我慢し続けた結果健康を害しては元も子もありません。被害の状況を正確に伝えて、トラブルへの善処を冷静に促す必要があります。
近隣のペットによるトラブルでお悩みの方は事態が悪化する前に、弁護士に相談することをお勧めします。