明渡後の残置物をどうにかしたい | 京都の弁護士による不動産トラブル相談

大木祐二法律事務所

明渡後の残置物をどうにかしたい

明渡後の残置物についての賃貸人の対応

 土地や建物の賃貸借契約が終了したにもかかわらず、賃借人が家具や資材などを残したままの場合、その残置物を勝手に処分してもいいのかについては、地主および家主 が大いに悩むところです。
 誰が見ても明らかなゴミであれば、賃貸人の方で勝手に処分しても後々もめることはありませんが、問題となるのはゴミとは判断できない賃借人の持ち物です。
 賃貸人が採るべき対応について、賃借人と連絡が取れる場合、取れない場合に分けて解説します。

賃借人と連絡が取れる場合

 多くの場合、契約終了時の明渡作業には賃借人も立ち会います。そこで、通常損耗を除く壁、畳、床、ふすま、障子の損傷を点検し、残置物について相互に確認します。残置物については、その場で賃借人に引取りを求め、これを拒むときは、賃借人から処分の承諾を得た上で、処分に要する費用を請求します。
 なお、残置物処分に関する費用の支払は賃貸借契約から生じる賃借人の債務であるので、敷金によってその支払が担保されます。すなわち、その費用や通常損耗を除く賠償金、滞納賃料などを合計した金額と、敷金との差額について賃借人に返還すれば足りるのです。
 また、明渡時に賃借人が不在であった場合でも、賃借人の意思確認ができる場合には、残置物について所有権を放棄する旨の確認書をとりましょう。これを根拠に賃貸人は残置物を自由に撤去処分できます。

賃借人と連絡が取れない場合

 問題は賃借人と連絡が取れず、処分の承諾が得られない場合です。

⑴ 賃借人の承諾がない処分は違法

 予め賃貸人による所有権放棄や処分の承諾を得ていなければ、残置物が賃貸人にとっては無価値物であったとしても、他人の所有物であることに変わりありません。自己の土地や建物を占拠しているからといって勝手に廃棄などの処分をしてしまうと、所有権侵害による不法行為責任や器物損壊罪などの刑事責任を問われる可能性があるので注意が必要です。

⑵ 所有権放棄特約の効力

 賃貸借契約書に「賃貸借契約終了後、賃借人が本件建物内の所有物件を賃貸人の指定する期限内に搬出しないときは、賃貸人はこれを搬出保管または処分の処置をとることができる」という記載をすることがあります。いわゆる所有権放棄特約です。
 契約書にこのような規定があれば、賃貸借契約が終了しさえすれば、賃貸人は残置物の処分ができるのでしょうか?

自力救済の禁止

 平成3年1月29日の東京高裁判決では、たとえ「賃貸人が賃借人の賃料滞納を原因として契約を解除したとして」も、「建物内の残置物を勝手に処分した場合、たとえ上記内容の契約書があったとしても、賃貸人の違法な自力救済である」として賃借人による不法行為に基づく損害賠償請求を認めました。
 このような特約は、たとえ無権限による占有を排除するためであっても、裁判所による厳格な手続きを経ることで法秩序を維持するという建前を骨抜きにするからです(自力救済の禁止)。
 ただし、法的手続を待てないほど緊急やむをえない特別な事情があり、その手段も必要の限度を超えない場合に限り自力救済としての違法性が阻却される余地がありますが(最高裁判決昭和40年12月7日)、「特約による追出し」の違法性が否定されることはまずないでしょう。

特約の効力

 賃借人が任意に賃貸物件を明け渡した場合には、その際に賃借人からの承諾を得て賃貸人が処分することは何ら問題ありません。そこで、明渡後に残置物を処分できるという内容の特約は有効です。
 つまり、賃貸借契約終了後、賃借人による明渡しが終了している場合には特約は有効、未だ明渡が終了しておらず賃借人の居住が継続している間は、賃貸人が内部まで入り込んで処分することまで許容する効力はないことになります。特約が効力をもつのは、賃借人による任意の明渡後です(上記東京高裁判決)。

⑶ 連帯保証人

 では賃借人と連絡が取れない場合、残置物の除去を連帯保証人に求めることはできるでしょうか?
 答えはNoです。
 まず、連帯保証人といえども賃借人とは別人格であり、勝手に他人の所有物を処分することはできません。
 また、仮に所有権放棄特約があったとしても、その要件として明渡しが必要ですが、明渡義務は賃借人の一身専属的な義務であり、保証人が代わって履行することはできません(大阪地裁判決 昭和51年3月12日)。したがって明け渡すことができない以上、特約の効力が生じることもありません。    

⑷ 明渡訴訟

 賃貸物件内部の残置物を処分するためには、まず前提として賃借人による明渡しが必要であることはご理解いただけたと思います。
 通常、賃貸人は明渡しに応じない賃借人に対して、明渡訴訟を提起します。賃借人の所在が不明である場合には「公示送達」という方法をとることができます。その後、明渡しを命じる判決を得て、強制執行手続によって残置物の搬出が可能となります。
 つまり、明渡訴訟では残置物の持出しが可能となるだけで、当然に廃棄や売却といった処分ができるわけではありません。承諾や特約がない限り、明渡後は賃貸人に残置物を保管する負担が発生してしまいます。

明渡時の動産執行

 明渡しが問題となっている場合、滞納賃料が発生していることが多くあります。そこで、明渡請求時に滞納賃料の支払も併せて請求することが可能です。両請求について認容判決が出されると、理論上は明渡執行と同時に滞納賃料回収のために建物内の動産類について強制執行が可能になります。
 しかし、どんな財産でも差し押さえられるわけではなく「差押禁止財産」に該当しない動産のみが対象です。生活必需品(家電、家具、台所用品、衣類など)や事業に必要な器材や設備などは差押禁止財産にあたり、これらは差し押さえることはできません。居住用の建物の場合、差し押さえ可能な財産がほとんどないのが現実です。 
 したがって、目ぼしい財産がない場合にはあえて動産執行を申し立てる実益がありません。

目的外動産の引きしまたは売却

 明渡しの強制執行の際に、建物内部にある冷蔵庫やエアコンなど建物から独立している物を「目的外動産」といいます。執行の目的(建物)ではないという意味で「目的外」です。また、対象となる動産は「差押禁止財産」のような限定はありません。
 明渡執行時に執行官がこれらを取り除き、賃借人やその親族に引き渡します(民事執行法168条)。引渡しができない場合には、執行官によって売却手続がとられ(民事執行規則第154条の2)、売却代金は執行費用に充当されます。

まとめ

 残置物問題は多くのオーナーにとって頭の痛い問題です。昨今多発する賃借人の室 内孤独死事故に至っては相続問題と複雑に絡み合って、個人で解決するのは至難です。
 現在残置物でお悩みの方はもちろん、将来問題が発生するのではと危惧されている方は、ぜひ弁護士にご相談ください。

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