相続
遺産分割とは、故人による遺言がない場合(遺言があっても協議によって遺産分割をすることを妨げるものではありませんが、遺言があればそれに従うことが多いです。)で、かつ、2人以上の相続人がある場合に、相続人間で遺産を分け合うことです。遺言によって遺産全部について処分方法が決められておりそれに従う場合や、相続人が1人しかいない場合には、遺産分割は不要です。
分割するには、遺産となる不動産の評価をしなければなりません。
評価方法については、固定資産税評価額、路線価、公示価格、基準地価などいろいろとありますが、相続人全員の同意が得られれば、どの評価方法をとっても構いません。
実際には、売買価格を複数の不動産業者に問い合わせるのが一般的です。この評価に納得がいかない相続人がいる場合は、不動産鑑定士による鑑定が必要になることもあります。
遺産が現金や預金などの場合は1円単位で分割すればよいのですが、遺産に不動産がある場合、これを相続人間で分けるには具体的にどのようにすればよいのでしょうか。
遺産分割方法には、主に現物分割、代償分割、換価分割の3種類があり、さらに協議がまとまらない場合には遺産分割調停・審判という方法があります。それぞれのメリット、デメリットを解説します。
現物分割は、遺産をあるがままの状態で分割する方法です。
遺産をそのままの形で取得することができ、次の代償分割や換価分割のような評価や売却といった争いが生じにくいです。また、それぞれの財産は各相続人の単独所有となるため、共有状態に伴うリスクも避けられます。
また、令和2年4月1日の相続法改正により、配偶者が相続開始時に被相続人所有の建物に居住していれば、遺産分割で配偶者に建物居住権を与えることができるようになりました。例②の場合、建物の所有権はBにありますが、Aは居住を継続できることになります。
財産ごとに取得者を決めると、価値に偏りが生じる場合や処分のし易さに差が生じる場合には、協議が整わないおそれがあります。
また、分筆できるのは土地だけであり、建物は分割できません。土地についても、各自治体が定める最低敷地面積を下回って分筆した場合には建物の建築が制限させることがあり、注意が必要です。
代償分割とは、不動産などの財産を特定の相続人が取得し、他の相続人にはそれぞれの持分に応じて代償金を支払われるという方法です。
相続人として子の兄弟ABの二人がいる場合、遺産にはAが相続開始前から居住している2000万円の建物と1000万円の現金がある。そこで「建物はA、現金はB」と分けて、AがBに代償金として500万円を支払う。
不動産を細分せずにそのままの状態で相続できます。実際、相続人の一部が相続開始前から居住しており今後も住み続けたいと希望する不動産についてよく利用される方法です。
また、例の場合だと、ABとも終局的には1500万円の経済的価値を相続したことなり、相続人間の公平が保てます。
代償金の準備が不可欠です。例の場合だと、Aが500万円を支払えることが前提となり、Aに資力がない場合には利用できません。令和2年新設の配偶者居住権は、「配偶者」のみに認められる権利であり、例の場合だと、子Aは代償金の支払いなく居住を継続することができないのです。
また、土地が代償分割の対象となる場合には、土地の評価額について争いになることがめずらしくありません。
換価分割とは、遺産である不動産を売却(換価)して、その代金を相続人間で分け合う方法です。売却方法は任意売却が一般的ですが、競売手続を利用することもあります。
被相続人の子である兄弟ABが相続人で、相続財産の不動産を2000万円で売却したが、売却費用や税金などの諸経費が200万円を要した。そこで、売却代金から諸経費を除いた1800万円をABそれぞれ900万円で分割した。
現物分割が難しい不動産を価格という数字に変えてしまうので、相続人間の均衡が一目瞭然です。
不動産を売却してしまうので、代償分割の場合のような「評価」の必要がなく、評価方法をめぐって相続人間でもめるおそれはありません。
また、売却代金から各相続人は取り分を得ますので、代償分割のように特定の相続人の資力が問題になることもありません。
空き家や遊休地など、相続人のうち誰も使用を希望しない不動産であれば有用な方法ですが、相続開始後も居住を続けたい相続人がいる場合には不向きです。
売却に要する費用や不動産売却に伴う譲渡所得税などの諸経費が必要になります。売却価格だけではなく諸経費についても十分にリサーチを行い、費用倒れにならないように注意が必要です。また、誰が売却手続を進めていくか、最低売却価格や売却期間についても相続人間であらかじめ決めておかなければなりません。
相続人間で話し合っても決着できない場合には、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てます。裁判所での調停で合意できない場合には審判手続に移行し、家庭裁判所が遺産の分け方を決定します。
裁判所が後見的見地から相続人間の公平を図り、抜本的な解決になります。
調停であれば相続人らの意向優先で話し合いがもたれますが、審判になると、裁判所は相続人らの希望を反映させるとは限りません。審判では相続人間の公平をはかることを目的として法定相続分に応じて分割することを原則としています。したがって相続人の一部が不動産を取得するという現物分割は基本的に行われません。
また、相続人の一人が不動産を取得することについて他の相続人は合意しているものの、代償金の支払ができずにもめている場合に、裁判所は代償分割を選択せず、価格分割(競売命令)される可能性があります。つまり、誰も望まない換価もあり得るのです。最終的には不動産が共有状態になることもあり、実質的に紛争が解決されたか微妙な例もあります。
不動産の遺産分割方法については、まずは現物分割を検討し、これが難しい場合には代償分割を検討します。それも困難な場合には換価分割を検討する、という流れで進めていきます。審判になった場合にもこの3つから分割方法が選択され、原則、「共有状態」にはされません(例外として、相続人が共有を希望しておりそれが特段不当と認められない場合や多数の相続人間において利害を共通するグループがいて各グループごとに現物分割して個々のグループ内で共有する場合など)。
遺産に不動産が含まれておりその分割方法についてお悩みの方は、一度弁護士にご相談ください。