日照権をめぐるトラブル | 京都の弁護士による不動産トラブル相談

大木祐二法律事務所

日照権をめぐるトラブル

日照権とは

定義

 日照権とは、日当たりを十分に確保して健康的な生活を送る権利のことをいいます。
 日照権を直接認めた法律はありませんが、昭和47年6月27日の「居宅の日照は、快適で健康な生活に必要な生活利益」であるとした最高裁判決をはじめ、多くの裁判例で認められており、保護されるべき権利として確立しています。

権利主体

 日照権の主体は、建物の所有者、居住者、借家人です。これらの者が、日照権が侵害されそうな場合には建築工事の差し止めを、日照権が侵害された場合は損害賠償を請求することができます。

法的根拠

 日照権を認める根拠には、土地や建物の所有権に含まれるという説や人格が享受する当然の権利だとする説などさまざまにありますが、いずれの説に立っても、結論として建築工事の差止めおよび損害賠償請求を認める点で差異はありません。

日照権に関する法律

「日照権」という概念が明記された法律はありませんが、日照権に関する法律として建築基準法があります。建築基準法では日照権を保護するため「日影規制」と「北側斜線制限」を定めています。

日影規制

 日影規制とは、対象地域内で中高層建物を建築する場合に、その近隣地域に及ぼす日影時間を一定時間以下に規制するものです。わかりやすく言うと、建物を建てる場所(用途地域)と高さの制限です。日照を確保するために、一年で最も日が短い冬至の日(12月22日頃)を基準として定められています。

北側斜線制限

 北側斜線規制とは、南側に建築される建物によって北側の建物の日照が妨げられないようにするための規制です。日影規制と同様、用途地域と建物の高さが制限されます。北側の隣地境界線上に一定の高さをとって、そこから一定の勾配で画された線内での建物の建築を認めることから、「斜線」制限と言われています。

建築基準法以外の規制

建築基準法の限界

 建物を建てるにあたっては、まずは建築確認申請における確認手続、そして中間検査、さらには完了検査など各種検査を受けなければなりません。検査では建築基準法に定められた規制に違反していないか、その都度確認されます。
 このように念入りな検査をするのだから、違反があれば直ちに日照権侵害かといえば、そうではありません。建築基準法という行政法規上の違法と差止めや損害賠償請求の根拠となる違法は異なるのです。すなわち、一方住民の日照権と他方住民の敷地利用の自由を形式的・画一的に調整したのが建築基準法です。個々の事案について、実際に被害の防止・回復が必要な日照権侵害があったかを検討するには、当事者間の利益を具体的に衡量する必要があります。
 国土の狭い日本で行政法規上の数値違反すべてが差止めや損害賠償請求の対象であるとすると、高層建築がほぼ不可能になってしまうという事実上の不都合もあります。

日照権侵害の受忍限度

⑴ 受忍限度論

 日照権に関する隣家同士の権利や利益を調整する考え方として、多くの裁判例で採用されているのが「受忍限度論」です。
建築基準法に適合する建物であっても、被害者が受ける不利益が社会生活上一般に受忍すべき限度(受忍限度)を超えていた場合は違法であると評価され、損害賠償請求や建築差止請求の根拠となります。

⑵ 判断基準

「受忍限度」の判断については多くの事情が考慮されます。

加害建物の建築基準法違反の有無

 もっとも重要で明白な基準が、法規違反があるかどうかです。建築基準法に適合している場合に日照権侵害が肯定されることは、ほとんどありません。
 ただし、建築基準法に抵触しない新築建物について建築の全面的な差止めを認めた判例もあります(名古屋地裁平成6年12月7日)。この事件を含めて多くの判例では、次から記載する他の事情も含めて総合的に考慮しています。

日照阻害の程度

 一次的には冬至日、二次的には春分および秋分の午前8時から午後4時において、被害建物の南側開口付近の日照時間を計測し、日照阻害の程度を判断します。

地域性

 日照阻害の程度とその地域における日照確保の必要性との相関関係で、日照妨害の違法性を判断します。具体的には、住居地域の方が商業地域よりも日照が重視される(日照権侵害が認められやすい)という判断に繋がります。

加害・被害回避の可能性

 加害建物側、あるいは被害建物側で日照阻害を少なくする手段(計画変更など)があるかどうかを考慮します。

加害・被害建物の用途

 建物の用途から建築の必要性と日照確保の必要性を衡量します。たとえば加害建物が公共物の場合には建築の必要性が高い、被害建物が病院や幼稚園である場合には日照確保の必要性が高いとの判断に傾きます。

先後関係

 加害建物と被害建物のどちらが先に建設されたかによって優先関係を断します。

交渉の経緯

 加害建物の建築主が被害住民に説明や意見交換を行い、場合によっては設計変更するなど、紛争が生じないよう誠実に努力したかという点も、違法性の判断にとって重要な要素です。

法的救済手段

 建物が完成してしまうと、日照権侵害を理由に建物の取壊しが認められることは非常にまれです。その結果、損害賠償請求で金銭的な解決を図るしかないことになります。そこでより直接的な手段として、建物が完成する前の工事の差止請求、仮の地位を定める仮処分があります。

建設工事の差止請求

 日照被害が著しい場合には建物が完成する前に、裁判所に工事の差止を求めることができます。
 しかし、工事を最終的に中止させるには裁判で判決を得る必要がありますが、判決が確定するまでは相当の時間を要します。その間、建築主側は工事を続行することも可能であり、判決が下されたときにはすでに建物が完成してしまっていたという事態になりかねません。
 そこで、このような不都合を回避するために、次の仮処分の手続があります。

仮の地位を定める仮処分

 裁判所が、被害者が建築主側に対して工事の差止めを請求できる地位にあると暫定的に定めて、建築主側に建築工事の続行禁止を命じる手続です。仮処分命令が認められるには、建築工事の続行禁止をする必要性が高いことを「疎明」する必要があります。疎明とは、裁判所が一応確からしいという心証をいだく程度の立証を言います。
 ただし、仮処分の申立てには高額の保証金(建築費の20〜50%)を供託する必要があります。また、工事の続行禁止が認められる範囲は、受忍限度を超える損害を与える部分に限定されます。

まとめ

 日照権トラブルといっても内容はさまざまであり、とくに日照権侵害の受忍限度の判断については専門的な知識が必要です。また、救済手段の選択の場面においても、建築工事のスピードや費用と、実際にカバーしたい被害の内容を擦り合わせた現実的な判断が要求されます。
 日照権をめぐるトラブルでお困りの方は、実績豊富な弁護士にご相談ください。

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