賃貸人様(貸主)
賃貸借契約を解除するためには解除原因がなければなりません。解除原因には賃料不払の他に用法遵守義務違反や無断転貸など様々なものがあります。
ここでは賃料不払以外の解除原因についてご紹介します。
賃借人は、契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従い、目的物を使用・収益する義務を負います(民法616条・594条1項)。そして、賃貸借契約の目的物を返還するまでの間、善良な管理者の注意をもって当該目的物を保存する義務(善管注意義務)を負います(民法400条)。これらの賃借人の義務を用法遵守義務といいます。賃借人の用法遵守義務違反は債務不履行となり、賃貸借契約の解除原因となります(民法541条本文)。
賃貸人と賃借人は、賃貸借契約の中で目的物の使用収益の方法・目的を定めることができます。例えば、特約で使用目的を居住目的とすることや、ペットの飼育を禁止することができます。ここで注意しなければならないのは、特約で用法を定め、賃借人がその用法に違反する使用収益をしたときでも、当然に賃貸借契約の解除が認められるとは限らないということです。家賃滞納を理由とする契約解除のコラムでも述べた通り、賃貸借契約は当事者間の信頼関係を基礎とする継続的契約であるため、賃貸借契約の解除には信頼関係の破壊が認められなければなりません。したがって、当該用法遵守義務が信頼関係を破壊するものであるか否かを別途検討する必要があります。
用法遵守義務については上記の通り民法に規定があるので、用法についての特約がなくても賃借人は用法遵守義務を負います。
そうすると、あらかじめ特約で用法を定めておく意味はないのではないかと思われるかもしれません。しかし、使用目的を定めておくことで、信頼関係の破壊についての賃貸人側の立証が容易になります。ですから、用法をあらかじめ定めておくことは解除の場面で重要な意味を持ちます。
用法遵守義務違反には①使用目的違反、②迷惑行為、③保管義務違反、④無断増改築などがあります。
先ほども述べましたが、賃借人が用法遵守義務に違反しても、賃貸人と賃借人の間の信頼関係が破壊されていなければ賃貸借契約を解除することはできないとされています。信頼関係が破壊されているか否かは、使用状況、賃貸人が受ける損失や建物の損壊の程度、近隣住民への迷惑の程度などから事案ごとに判断します。建物を暴力団事務所として使用したケースでは信頼関係が破壊されていると判断されました(東京高判昭和60年3月28日)。これに対して、居住目的で賃借した部屋を少人数の学習塾として使用し、建物の汚損もなかったようなケースでは信頼関係が破壊されていないと判断されました(東京高判昭和50年7月24日)。
信頼関係が破壊されていると認められ、かつ無催告解除特約があるときは、無催告解除をすることができます。無催告解除特約がない場合、原則として民法541条の催告が必要となります。もっとも判例上、信頼関係の破壊が著しい場合には無催告解除をすることができるとされています。
賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、賃借物を転貸することはできません(民法612条1項)。そして、賃借人が賃貸人の承諾を得ずに第三者に賃借物を転貸して使用収益をさせたときは、賃貸人は賃貸借契約を解除することができます(民法612条2項)。
無断転貸による賃貸借契約解除が認められるにはやはり信頼関係の破壊が必要ですが、条文上無断転貸は原則として禁止されるので、当該無断転貸が背信的行為と認めるに足りない特段の事情を賃借人の側が主張・立証しなければなりません。信頼関係が破壊されているか否かは、賃貸人に対する経済的不利益の有無や転貸の営利性、転貸に至る動機などから事案ごとに判断します。
解除原因は、賃料不払や用法遵守義務違反、無断転貸以外にもあります。例えば、賃貸借契約に更新料特約があるにもかかわらず、更新料が支払われないときには、その不払が解除原因となることがあります。
以上の通り、賃貸借契約の解除原因には家賃滞納以外に様々なものがありますが、解除の可否は様々な要素を勘案して判断されますので、専門家である弁護士に相談するのがよいでしょう。