賃借人様(借主)
転貸とは、賃借人が目的物を第三者に賃貸することであり、いわゆる「又貸し」のことです。転貸借契約をしたとしても、当初の賃貸借契約(これを「原賃貸借契約」といいます。)は残り、結果的に原賃貸借契約と転貸借契約という2つの契約が併存することになります。これを図にすると以下のようになります。
原賃貸人 原賃借人=転貸人 転借人
原賃貸借契約 転貸借契約
建物の転貸としてよく勘違いされるケースとして、土地の賃借人が借地上に建てた建物を第三者に賃貸するケースがあります。図にすると以下のようになります。この場合、確かに2つの賃貸借契約が存在するので、借地上の建物の賃貸は転貸に当たるように見えます。しかし、借地上の建物は土地の賃借人の所有物であり、自由に使用収益できるので、この建物を第三者に賃貸したとしても、それは転貸には当たりません。
建物賃貸借契約
建物賃貸人 建物賃借人
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土地賃貸人 土地賃借人
土地賃貸借契約
民法612条1項は「賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。」と規定し、同条2項は「賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。」と規定しています。
したがって、適法に転貸するためには原賃借人が原賃貸人の承諾を得なければなりません。このように、原賃借人が原賃貸人の承諾を得て行う転貸のことを「承諾転貸」といいます。これに対して、原賃借人が原賃貸人の承諾を得ずに行う転貸のことを「無断転貸」といいます。無断転貸であっても、転貸借契約が無効となるわけではなく、解除等されない限りは有効です。転貸人は転借人のために原賃貸人から転貸の承諾を取得する義務を負います。
上述の通り、無断転貸がされた場合であっても、転貸借契約は直ちに無効になるわけではありません。もっとも、無断転貸をした場合には、原賃貸人は原賃貸借契約を解除することができます(民法612条2項)。しかし、賃貸借契約は当事者の個人的信頼を基礎とする継続的法律関係であることから、無断転貸がされ、第三者(転借人)が建物を使用収益した場合でも、背信的行為と認めるに足りない特段の事情が存しないときは、同項の解除権は発生しません(最判昭和28年9月25日)。無断転貸が行われて第三者による使用収益があったときには解除権が発生するというのが原則であるので(同項)、「背信的行為と認めるに足りない特段の事情」というのは無断転貸をした賃借人側が立証しなければなりません。
「背信的行為と認めるに足りない特段の事情」は、賃貸借の目的物(借地か借家か)、賃貸借の使用目的(営利目的か否か)、当事者の人的関係(家族か第三者か)、目的物の現況(目的物に変更が加えられているか否か)、賃貸人の被る不利益の程度、無断転貸に至った経緯など諸般の事情を考慮して個別事案に応じて判断されます。
「背信的行為と認めるに足りない特段の事情」が認められる場合には、無断転貸であっても、適法な転貸借契約ということになります(最判昭和45年12月11日参照)。
上記の「背信的行為と認めるに足りない特段の事情」が認められない場合には、原賃貸人に解除権が発生します。そして、原賃貸人が原賃貸借契約を解除すると、原賃貸借契約は終了し、原賃貸人は原賃借人(転貸人)に賃貸借契約の終了に基づいて建物の明渡請求をすることができます。そして、原賃貸人は転借人に対し、所有権に基づいて建物の明渡請求をすることができます。
また、転貸借契約は原賃貸人の転借人に対する明渡請求により、解除をするまでもなく当然に終了します(民法616条の2)。
転貸借がされても原賃貸借契約は残存しますが、原賃貸人と転借人の間には契約関係は生じません。もっとも、承諾転貸の場合又は無断転貸であっても上記の特段の事情が認められて解除権が発生しない場合には、転借人は原賃貸人に対して直接に義務を負います(民法613条1項前段)。
したがって、原賃貸人は転借人から賃料を得ることもでき、転借人は転貸人(原賃借人)に対する賃料前払いをもって原賃貸人に対抗することはできません。ただし、転借人の原賃貸人に対する義務の範囲は原賃貸借契約に基づく原賃借人(転貸人)の債務の範囲が限度となります(同項前段)。例えば、原賃貸借契約における賃料が20万円、転貸借契約における賃料が30万円の場合に、原賃借人(転貸人)が賃料を滞納したときには、転借人は原賃貸人に対して20万円を支払えば足りることになります。逆に、原賃貸借契約における賃料が30万円、転貸借契約における賃料が20万円の場合に、原賃借人(転貸人)が賃料を滞納したときには、転借人は原賃貸人に対して20万円を支払えば足りることになります。
無断転貸がされた場合であって解除権が発生するときには、第三者(転借人)は原賃貸人に対して直接義務を負いません。なぜなら、民法613条1項は適法な転貸借を前提とした規定であるからです。
原賃借人(転貸人)が原賃貸借契約の賃料を滞納しているような場合には、原賃貸人は原賃貸借契約を解除することができます。これにより原賃貸借契約は終了しますが、原賃貸人の転借人に対する所有権に基づく明渡請求により、転貸借契約も当然に終了します(民法616条の2)。なお、原賃貸人が原賃貸借契約を解除する場合に、転借人に対して催告をする必要はありません(最判昭和37年3月29日)。
承諾転貸がされた場合に、原賃貸人と原賃借人の間で原賃貸借契約を合意解約したとしても、その合意解約を転借人に対抗することはできません(民法613条3項本文)。ただし、その解除の当時、原賃貸人が原賃借人の債務不履行による解除権を有していたときは、合意解約を転借人に対抗することができます(同項ただし書)。
民法541条の債務不履行解除の場合には、解除の手続的要件として履行の催告をしなければなりませんが、民法612条2項の無断転貸を理由とする解除の場合には、このような催告は必要ありません。もっとも、無催告解除の場合でも解除通知は発送しなければなりません。実務上、解除通知は内容証明郵便で発送するのが一般的です。
解除通知が原賃借人に到達し、転借人が建物を明け渡せば問題は解決します。もっとも、原賃借人が解除の効力を争い、または、転借人が建物を明け渡さないといった場合には、原賃貸人は原賃借人や転借人に対して建物の明渡請求をすることになります。この場合、調停やADR(裁判外紛争手続)、訴訟により明渡しを実現することが考えられます。
無断転貸も無効となるわけではありませんが、賃借人が転貸をしたい場合には、やはり賃貸人の承諾を得るべきでしょう。また、賃貸人の承諾を得た場合には承諾を書面にしておくとトラブルを未然に防ぐことができます。上記の通り、転貸には様々な法的問題が含まれているので、不安な点があれば弁護士に相談してみるとよいでしょう。