その他のトラブル
悪臭とは、人が感じる嫌な臭い、不快な臭いのことをいいます。
悪臭によるトラブルは、マンションのベランダでの喫煙、ペットのフンの後始末をしない、庭先で頻繁に物を焼く、ごみを家の中に放置してゴミ屋敷にしてしまうなどの日常生活上のものから、焼肉・焼鳥店などからの臭いの排出、化学肥料工場からの排煙などの商業上のものまで、さまざまな場面で発生します。
環境省の悪臭苦情の統計データによりますと、令和元年度の発生源別では、野外焼却が 3,593 件(全体の 29.9%)、次いでサービス業・その他の 1,842 件(同 15.3%)、個人住宅・アパー ト・寮の 1,474 件(同 12.3%)の順となっています。
最近の傾向としては、従来大部分を占めていた畜産農業施設、製造工場からの悪臭に対する苦情が減少しているのに対し、飲食店などのサービス業からの悪臭に対する苦情が増えているのが特徴です。
悪臭を規制する法律として悪臭防止法があります。
規制地域内にある工場や事業場は、その業種を問わずすべてが対象となります。規制地域は都道府県知事や市などの長が指定します。
これに対して、一般の住宅や個人は、対象外です。ただし、まったく無関係ではなく、悪臭防止法に基づいて各自治体の長が定める規制基準は、裁判の場面における「受忍限度」において重要な基準として用いられています。
⑴ 悪臭問題は、全国一律の規制がされておらず、各自治体の長が地域ごとに規制基準を定めることになっています。
その際には次のうちのいずれかの方法で臭気強度を数値化し、0「無臭」から5「強烈なにおい」まで6段階に分けられます。
そして、数値化した臭気によって、次の3つのポイントにおける規制基準をそれぞれ設定します。
たとえば1号基準については、当該地域の実情に応じて臭気強度2.5~3.5の間で定められています。
⑵ 定められた規制基準について、事業者は「遵守義務」を負います(7条)。すなわち、守るよう努力する義務であり、規制違反が直ちに刑罰の対象となるわけではありません。
ただし、規制基準は裁判時における「受忍限度論」の重要な基準となります。つまり、社会通念上我慢すべき限界を超えた悪臭が「違法」と評価され、損害賠償などの民事責任の根拠となるのですが、我慢すべき限界かどうかの判断要素の一つとして規制基準が活用されるのです。これは、発生源が事業者だけではなく個人の場合にもあてはまります。
⑶ そして、悪臭防止法は規制基準を設定するだけではなく、以下のように段階を追って規制を強めていきます。
近隣住民から悪臭についての相談があった場合、各自治体の長は事業者に報告を求め、また立ち入り検査をすることもできます。もし虚偽報告をしたり検査を拒否したりすると「30万円以下の罰金」が科されるおそれがあります(28条)。
悪臭の測定は、自治体の長から委託を受けた環境計量士や臭気測定従事者が実施します。
規制基準を超えた悪臭により住民が被害を受けている場合には、自治体の長は事業者に対して改善勧告および改善命令を出すことができます(8条)。
改善勧告や改善命令に事業者が命令に従わない場合、「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」という刑罰が予定されています(24条)。
では、悪臭に悩まされている場合、どこに相談すればよいのでしょうか?
各自治体には、悪臭を含む7分野の公害について相談窓口が設置されています。
相談内容に従って現地や被害の調査が実施され、事実関係を確認できた場合には、勧告や命令などによって改善指導が行われます。
「まずは相談したい」「時間がかかってもいいから行政の力で悪臭を減退させてほしい」という場合に向いています。
国の公害等調整委員会または都道府県の公害審査会の仲介により解決を図る制度です。
紛争処理の方法としては、当事者の話し合いによる合意を目指す「調停」、当事者による自主的解決を支援する「あっせん」、裁定委員会が法的判断を下す「裁定」、仲裁委員会が判断を下す「仲裁」の4種類があります。
「被害の原因や事実関係について意見の対立がある」「損害賠償を請求したい」「できれば早く、そして安く解決したい」という場合に向いています。
弁護士というと「裁判」というイメージですが、初めの苦情を申し入れる段階からの弁護士の関与が効果的です。悪臭測定の専門家と連携して事実関係を確認した上で、要望を記載した内容証明郵便を弁護士が代理人として送付します。相手事業者は裁判に発展するリスクや企業イメージへの配慮から、すみやかに交渉の席に着くはずです。要望の内容も差止めや損害賠償請求だけではなく、気候や風向きに応じた個別措置やにおいの強いメニューのサービス停止など柔軟な対応についても期待できます。また、同時に行政への働きかけも可能です。
「すぐに解決したい」「ケースバイケースで柔軟な対応を求めたい」「裁判も辞さない」という場合に向いています。
持ち家の戸建ての場合には自治会、分譲マンションの場合には管理組合、賃貸マンションの場合には不動産管理会社に相談するとよいでしょう。直ちに解決が図られるわけではありませんが、回覧や閲覧表示によって住民の注意を喚起し、同様の被害を受けている複数の住民の確認ができれば相手への強いプレッシャーになるはずです。
悪臭をめぐって隣人と争いになり、暴行や脅迫を受けた場合はためらわずに警察に相談する必要があります。
また、隣人が嫌がらせ目的でにおいの強いものを放置している、臭いが発生している部屋の住人と連絡がとれないなどのケ-スについても警察へ通報するのがよいでしょう。
なお、自治体の公害相談窓口は個人が発生源の場合には対応していません。個人を対象とする行政措置の規定や罰則がないからです。
やはり個人相手の場合でも弁護士への相談が有益です。特に個人間での話合いの場合、感情的になったり「気のせい、過剰反応だ」とかえって反感をかってしまったりなど、その後の近隣関係に支障をきたしかねません。弁護士がご依頼主様に代わって直接交渉にあたることで不要な摩擦が回避できます。
ただし、相手が事業者の場合と異なり、個人相手の場合には公的な臭気測定制度がないこと、集合住宅では発生源の特定が難しい、におい発生源の室内で住人が亡くなっており誰を相手にすればよいのかといった問題もあります。悪臭トラブルに詳しい弁護士に依頼することがなにより重要です。
一般的に「いいにおい」と思われるにおいでも、強さ・頻度・時間によっては「悪臭」と感じられる場合があり、トラブルの原因になります。悪臭でお悩みの方は、まずは公的機関や弁護士に相談することから始めましょう。