賃貸人様(貸主)
賃借人がお亡くなりになった場合、大家さんと賃借人との間の賃貸借契約は終了してしまうのでしょうか。また、生前の滞納家賃がある場合や、死亡後の家賃を払ってほしい場合には、どのような対応をとるべきなのでしょうか。
賃借人が亡くなった場合であっても、賃貸借契約は終了せず、死亡と同時に賃借権が相続人に相続されます(民法896条)。遺産分割協議が成立するまでの間、賃借権は相続人全員が準共有する状態になります(民法899条)。
したがって、大家さんが始めにやるべきことは、お亡くなりになった賃借人の相続人を探すことです。
相続人が確定された後、相続人に対する具体的な対応を検討していきます。
なお、建物内の家具等も相続の対象となります。たとえ賃借人が死亡したからといって、大家さんが勝手に建物内の物を処分・収去してはいけません。
損害賠償責任をはじめとする民刑事上の責任を問われる可能性があります。
大家さんは、相続人を探し出した後、以下の対応をとることが考えられます。
まず、建物の明渡請求、未払賃料や賃借人死亡後の賃料を相続人や連帯保証人に対して請求することが考えられます。
以下のページ「家賃未払いや明渡しを相続人に請求できるか」のコラムにて詳しく解説しています。
賃借人が亡くなった場合、解除事由があれば賃貸借契約を解除することができます。この場合、賃借権を準共有する共同相続人全員に対して、催告および解除の意思表示を行う必要があります。
なお、賃借人の死亡により賃貸借契約が解除される特約を設けることもあります(但し、場合によって賃借人に不利なものであるとして無効になる可能性が高いです)。
賃貸借契約が終了した場合、一般に賃借人は建物の原状回復義務を負います。建物内で亡くなった場合には、「故意や過失が認められるか否か」により賃借人が負う原状回復義務の範囲が異なります。
例えば、自然死によって発見が遅れたことで発生するリフォーム代金等は請求できないと考えられています。
その一方、自殺の場合には違法性が認められ、賃借人の地位を承継した相続人に対して比較的広範な範囲の原状回復や損害賠償責任を追及できる可能性があります。
以上に対して、死亡した賃借人に相続人がいないケースもあります。また、相続人が相続放棄をした場合、結果的に相続人がいない場合と同様になり、相続人に対して上述のような賃料支払や建物明渡しをすることはできないことになります。
このような場合、家庭裁判所で相続財産管理人を申し立てることが可能です。相続財産管理人とは、相続人がいない場合や相続人全員が相続放棄をした場合に遺産を管理する人であり、通常は弁護士が選任されます。
大家さんは、相続財産管理人を申し立てたうえで、配分請求を行い、未払家賃や原状回復費用を回収することが考えられます。しかし、この手続は長期間かかる可能性が高いうえ、相続財産管理人の報酬など大家さんが負担する費用も少なくなく、あまり現実的な手段であるとはいえません。このような場合は弁護士をはじめとする専門家に一度相談することをおすすめします。