相続
相続人調査とは、相続人が誰なのかを調べる作業です。
調査の対象となる「相続人」とは法定相続人のことで、以下のとおり、配偶者と血族です。
相続人の調査を必要とする人は二種類います。
それは相続人自身と、被相続人の債権者です。
それぞれどのようにして相続人の調査をしていくのでしょうか。相続人調査を必要とする場面や具体的な方法について解説していきます。
相続が開始すると、相続人はまず遺言書があるかないかを確認する必要があります。
遺言執行者がいる場合
遺言執行者が選任されている場合は、遺言に関わる業務を全て遺言執行者が行うため、遺言執行者が相続人調査をします。したがって、遺言執行者に選任されなかった相続人が調査をする必要はありません。
遺言執行者がいない場合
遺言書があるものの遺言執行者が選任されていない場合には、遺言書に「遺贈する」とあるか、「相続させる」とあるかで扱いが異なります。
遺贈とは遺言によって財産を無償で譲ることで、遺言には「遺贈する」旨の記載をします。相手に制限はなく、第三者はもちろん、法定相続人に対しても可能です。
遺贈があると、遺贈者(故人)の遺贈を履行する義務(財産の引き渡しなど)を法定相続人が相続することになります。したがって受贈者が誰であるかに関係なく、法定相続人全員(未成年者、破産者がいる場合は少し異なります。)でこの義務を履行しなければなりません。
ただ、実際には相続人のうちの代表者が金融機関の手続きや各種名義変更といった遺贈義務の履行を行います。相続人が受贈者の場合にはその当人が手続きを行うことが多いでしょう。もっとも、手続きには法定相続人を確認できる戸籍謄本や書類への相続人全員による署名や押印が求められることが多く、結果的に遺言書に記載されていない相続人についての調査も必要になります。
かねてより遺言で遺産分割方法の指定がなされることが多くありました。例えば、「不動産はAに、預貯金はBに相続させる」というように、特定の財産を特定の相続人に相続させる旨の遺言(令和元年改正民法から「特定財産承継遺言」と呼びます。)です。この「相続させる」という方法をとれば、相続開始によって直ちに各財産は当該相続人に承継されることになります。不動産であれば単独で名義変更ができ、相続人全員による共同申請が必要な「遺贈」と比べると大きく労力を削減できます。
したがって、特定財産承継遺言がされた場合は当該相続財産に関する処分については、相続人調査の必要がありません。
なお、特定財産承継遺言の相手は当然ながら相続人です。相続人以外の第三者は「遺贈」を受けるしかなく、その場合には全相続人による同意や共同申請が必要になり、前提として相続人調査をしなければなりません。
遺言書があっても、不公平な相続であり遺留分侵害額請求をしたいと考える相続人(兄弟姉妹は除く)は、自己の遺留分額を算出するために相続人調査をする必要があります。
遺言書がなければ、相続人全員で協議を行って遺産を分割しなければなりません。
全員が揃うためには相続人調査が必要になります。仮に相続人調査を怠ったり、調査 が不十分だったりして相続人に漏れが生じた場合は、成立した遺産分割協議は無効 となってしまいます。
普段から親族の交流があり互いの連絡先を把握している場合には、連絡をとって戸籍謄本を準備してもらいます。
そして、被相続人の本籍地から取り寄せた被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本・除籍謄本・改正原戸籍謄本(通常3種類が必要な場合が多いです。)と、相続人各自が準備した戸籍謄本を照らし合わせて相続関係を確認します。
問題は、親族の交流がなかったり3世代前の曽祖父母の遺産を分けたりするなど、相続人が多数に渡り疎遠である場合や、相続人の連絡先等が把握できない場合です。
誰が相続人かを調べるには被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍を集めることが必要になります。まず、死亡時の戸籍からスタートして順に前へ遡って出生までの戸籍を調べていくという方法が効率的です。戸籍には「一つ前の本籍地」が記載されています。その一つ前の本籍地から戸籍謄本を取り寄せます。戸籍謄本には出生や結婚、子の誕生、離婚、養子縁組、死亡などに関する情報が記載されており、これらを見ることで誰が相続人であるかを確認できます。この作業を出生に辿りつくまで繰り返すのです。
被相続人の出生までたどり着いた後、取得した戸籍関係資料から相続人であろうと思われる人の現在の戸籍まで取得する必要があります。万が一、その相続人であろうと思われる人が既にお亡くなりになっていた場合、代襲相続によりその人の子らが相続人になる可能性があるためです。
次に、相続人の住所の調査です。
判明した相続人の戸籍には本籍地が記載されているだけで、住所までは記載されていません。そこで、戸籍謄本記載の本籍地を管轄する市区町村から戸籍の附票を取り寄せます。戸籍の附票には戸籍の筆頭者名と当該戸籍に在籍している人の住所の変遷が記録されています。これによって相続人の現在の住所を確認することができます。
相続人調査は、相続人が多ければ多いほど集める書類も膨大になります。
また、戸籍謄本類は、原則として、直系血族(親や子など)に関するものしか取得できず、傍系血族(兄弟姉妹や甥・姪など)に関するものを取り寄せることができません。相続人の一部が相続放棄するなどして傍系血族への相続が発生した場合には、調査は事実上行き詰ってしまいます。
さらに、相続人に離婚歴や転籍が多い場合や海外に居住している場合にも調査は複雑で困難となります。
弁護士、司法書士、行政書士などであれば、職権で傍系血族の戸籍謄本類を取り寄せることができます。傍系血族の調査が必要なときや調査が困難を極めた場合にはこれら専門家の力を借りるとよいでしょう。
債権者にとっては、相続人が誰かまったくわからないところから相続人の調査がスタートします。
親族ではないため被相続人らの戸籍謄本類を取り寄せることができず、弁護士などの専門家による職権調査に頼らざるをえません。
委任を受けた弁護士などが、まずは被相続人の最後の住所地の住民票を取り寄せた上で本籍地を確認します。取得した本籍地情報をもとに、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本類や相続人の戸籍謄本および戸籍の附票を職権で取り寄せていくことになります。
被相続人が債務超過であることが予想される場合、相続人は相続放棄をしている可能性が高いです。その場合、債権者は被相続人の最後の住所地を管轄とする家庭裁判所において各相続人が相続放棄をしたか否かを確認をすることができます。そして、相続人全員が放棄している場合は、家庭裁判所で相続財産管理人を選任してもらい、債権者はその管理人を相手に債権の回収をしていくことになります。ただし、相続財産管理人の選任申立てには多額の費用が発生することに注意してください。
相続人調査は相続人自らが行うこともできますが、調査の範囲に限界があります。また、多くの場合、相続人調査は遺産分割協議や遺留分侵害額請求、債権回収の前提として行われます。これらをスムーズに行うためにも、相続人調査の段階から弁護士に相談することをお勧めします。