相続
不動産の所有権登記名義人が死亡した場合、被相続人名義の登記を処理しなければなりません。その場合の登記原因にはいくつか種類がありますが、多くは「相続」および「遺贈」です。
そこで、「相続」、「遺贈」を登記原因とする場合の処理方法について解説します。
相続を原因として不動産の所有権登記名義人を被相続人から相続人へ変更する登記のことを、相続登記といいます。法定相続分に従った定型的な相続のみならず、以下のようなものも含まれます。
(例1)
まだ相続登記を終えていない状態で遺産分割協議を行った場合です。
相続開始後、一旦法定相続分による共有の相続登記を経た後に遺産分割協議を行った場合は、登記原因は「遺産分割」になります。
(例2)
不動産売却の前提として、必ず相続登記をしなければなりません。「被相続人Aから直接買主Ⅾへ所有権移転登記をするのが合理的では…」と多くの方は思われるかもしれません。
しかし、このような中間省略登記は日本の民法では原則として認められていません。不動産の所有者が変わればその都度登記を書き換える、という繰りり返しが登記制度への信頼を築くからです。したがって、まず被相続人Aから相続人BⅭへの相続登記を行い、次いでBⅭから買主Ⅾへの所有権移転登記をすることになります。
相続登記をするにあたって、どのような手続きをすればいいのでしょうか?
相続登記をはじめ不動産登記申請をするには、不動産の所在地を基準として割り振られた法務局へ申請します。
申請方法としては、窓口申請、郵送申請、オンライン申請などの方法があります。
不動産の固定資産評価額の1000分の4の金額の登録免許税を手数料として法務局に納める必要があります。
申請にあたっては、相続が開始され、相続人全員または相続人の一部が不動産の所有権を取得したことを証明するために、以下の書類を添付して法務局へ提出しなければなりません。
法定相続人全員を確認するためです。
被相続人の両親もしくは祖父母が相続人の場合、これに加えて被相続人の子の出生から死亡までの戸籍謄本が必要となります。
被相続人の兄弟姉妹が相続人の場合、これらに加えて被相続人の両親もしくは祖父母の出生から死亡までの戸籍謄本が必要となります。
法定相続人が生存していることを確認し、代襲相続の有無を確認することにもなります。
法定相続分と異なる割合で相続登記する場合に必要です。協議書には所有権を取得しない相続人全員の実印による押印と印鑑証明書の添付も必要になります。
被相続人の最後の住所地や本籍地が記載されており、登記簿上に住所が記載されている所有者と被相続人との同一性を確認するためです。
架空人名義を防止し、登記簿上に所有者の住所を記載するためです。
登録免許税(法務局へ収める手数料)を算出するための評価額を確認するのに必要となります。法務局によっては、これに代わり、毎年4、5月に各市町村から送られてくる固定資産税の納付書に添付されている課税明細書の写しを提出することができる場合があります。
書類を揃え登録免許税を支払えば、相続によって対象不動産の所有権を取得した者は、単独で登記申請ができます。この点、遺産分割協議による場合も同様です(遺産分割協議書に相続人全員の署名捺印(実印)があり相続人全員の印鑑登録証明書があることが前提です。)。
被相続人が遺言書に相続人以外の第三者に遺贈する旨の記載があれば、遺贈を原因として、不動産の所有権登記名義人を被相続人から第三者へ変更することができます。この場合の登記を遺贈登記と言います。
(例3)
第三者へ遺贈する旨の遺言書がある場合には、被相続人Aが死亡して受遺者Ⅾが承諾すれば、不動産甲の所有権がⅮに直ちに移転します。相続人BⅭを中継しない点で相続登記とは異なり、AⅮ間の売買でもありません。そこで、Ⅾは遺贈を原因とする所有権移転登記手続をする必要があります。
遺贈を原因とする所有権移転登記手続はどのようなものでしょうか?
相続登記の場合と同様、申請先となる法務局は不動産所在地を基準に決められており、申請方法は窓口・郵便・オンライン申請があります。
不動産の固定資産評価額の1000分の20の金額の登録免許税を手数料として法務局に納めなければなりません。
申請に際しては、以下の書類を添付して法務局へ提出しなければなりません。
遺言者である被相続人の遺贈の意思を確認するためです。
遺言者である被相続人が所有者であったことの確認をするためです。
これらがない場合は、遺言執行者がいる場合とそうでない場合によって以下の書類が必要となります。
なお、登記済権利証、登記識別情報通知書、本人確認情報のどれも提出することなく申請した場合でも法務局からの照会に対して回答書を提出するという事前通知制度を利用することで登記手続を進めていくこともできます。
遺言執行者がいる場合には遺言執行者の登記申請意思を、いない場合には相続人全員の登記申請意思を確認するためです。
遺言執行者がおらず相続人全員による場合には、各自が法定相続人であることを証明するために、前述「相続登記」のアイの添付書類が必要です。
登記簿上に住所が記載されている所有者と被相続人との同一性を確認するためです。
架空人名義を防止し、登記簿上に所有者の住所を記載するためです。
前述「相続登記」の場合と同様で、登記申請の際には、必ず必要となります。
受遺者は、遺言で遺言執行者が選任されている場合は遺言執行者と、遺言執行者が選任されていない場合は相続人全員と共同で登記申請をする必要があります。相続登記のように単独申請はできません。
相続登記と異なり、被相続人の登記簿上の住所と最後の住所が異なるときは、そのつながりを証明するために戸籍の附票の除票を添付して、遺贈を原因とする所有権移転登記の前提登記として、住所変更登記が必要となります。
登記申請には特別な資格は必要なく、ご自身でも行うことは可能です。
しかし、相続人が数十人にのぼるような場合には相続関係説明図の作成だけでも2、3か月もしくはそれ以上かかります。
また、令和6年度からは土地の相続登記について義務される予定です。
不動産の登記が被相続人のままであることが気がかりの方は、お気軽に弁護士にご相談ください。