民法改正のあった保証人関係をきちんとしたい | 京都の弁護士による不動産トラブル相談

大木祐二法律事務所

民法改正のあった保証人関係をきちんとしたい

保証人が負う過酷な責任

 保証とは債務者が債務を履行しない場合に、保証人がその履行を代わりに行う(民法446条)ことです。不動産賃貸借契約を締結する際、賃貸人から賃借人に対して保証人をつけるよう求められますが、賃貸借契約における保証は、これまでは連帯保証人による包括根保証が一般的でした。ここで簡単に連帯保証と包括根保証の特徴を説明します。

単純保証と連帯保証

 単純保証であれば、債権者が保証人に対して支払を求めてきた場合、保証人は「まず主債務者に請求せよ」(催告の抗弁権)、「主債務者に財産があるから、そちらから取り立てよ」(検索の抗弁権)、さらに、複数の保証人がいる場合には「保証人数による割合分だけ支払う」(分別の利益)という対応が可能です。
 これに対して、連帯保証には、催告や検索の抗弁権は認められず、分別の利益もありません。主債務者と同列にかつ同等の責任を負うのです。

特定保証と包括根保証

 特定保証は特定の債務について保証します。たとえば「先月分の未払賃料10万円について保証する」とあれば、保証人は10万円についてのみ保証債務を負います。
 これに対して、包括根保証では期間と極度額を定めることなく、賃貸借契約から生じる賃借人の債務一切について保証することになります。たとえば主債務者が賃料月額10万円を10回滞納したままの場合には、根保証人は原則として100万円の保証債務を負担することになります。

連帯保証人による包括根保証

 賃貸借契約から生じる賃借人の債務は賃料支払義務だけではありません。以下のような責任もあります。

  • ・賃借人の過失によるマンションでの水漏れによる階下への水漏れの修理代
  • ・部屋での自殺による事故で長期間賃貸できなくなった場合の契約終了までの未払賃料や事故物件による損害等
  • ・部屋の残置物の処分代(所有権放棄特約により賃貸人が処分代を負担した場合や、原状回復のための残置物の保管料など)

包括根保証であれば、これらの費用や損害金が加算されていきます。そして支払を請求された連帯保証人は「まずは主債務者に…」との猶予を求めることはできず、全額支払わなければなりません。
民法改正前の賃貸借契約における保証人の責任がいかに重いものであったか、おわかりいただけると思います。

保証に関する改正点

賃貸借契約における保証人が予想外の債務を負担する事態を防止するため、令和2年4月1日施行の改正民法では以下のルールが設けられました。

個人の包括根保証契約の禁止

「個人」が根保証人になる場合について、必ず上限額(極度額)を書面にて定めなければならないことになりました。極度額を定めずに個人根保証契約を締結した場合は、保証契約は無効です。
書面は公正証書にする必要はなく、契約書で足ります。極度額の記載は「〇円」と明示する以外にも、「賃料△か月分」と具体的な金額と上限が確定できれば有効です。ただし、法外に高額な定めは、公序良俗違反などを理由に無効となる可能性があります。
 なお、改正では「個人」が連帯保証人になる場合を対象としています。家賃保証会社などの法人については、今までどおりに行われ、極度額の設定は求められません。

元本確定

個人が保証人になる場合は、次の事情があったときに保証債務の範囲が確定(元本確定)し、それ以降に発生する賃借人の債務は保証の対象外となります。

  • ・債権者が保証人の財産について強制執行や担保権の実行を申し立てたとき
  • ・保証人が破産手続開始の決定を受けたとき
  • ・主債務者または保証人が死亡したとき

 たとえば、賃借人の死亡後、遺族が賃借権を相続して居住を続ける場合(賃借権は相続の対象)、以前は遺族による賃料不払などについてまで保証債務を負っていましたが、改正によりそのような事態はなくなりました。

事業用賃貸物件の主債務者(賃借人)による情報提供義務

(1) 賃借人による情報提供義務

 事務所や工場など事業に使う不動産の賃貸借契約において個人が保証することがあります。事業用の不動産賃貸借では、主債務者(賃借人)は保証人になろうとする者に以下の情報を提供するよう義務付けられました。

  • ・賃借人の財産および収支の状況
  • ・賃料などの主債務以外の賃借人の債務の額および弁済状況
(2) 保証人による取消し

上記の情報提供がなされず、あるいは不実の説明がなされた場合には、そのことについて賃貸人が知ることができたことを条件に、保証人は、賃貸人との間の保証契約を取り消せることができます。
 保証契約は債権者(賃貸人)と保証人との間で締結され、主債務者(賃借人)は保証契約の当事者ではありません。したがって、当事者以外の義務違反を理由に保証契約を取り消すことはできないのが原則です。しかし、事情を知ることができた債権者(賃貸人)を保護する必要はなく、取消しの主張ができるのです。
もちろん「知っていた」「知らない」の水掛け論は不毛ですから、保証契約締結時に「保証人が、賃借人の財産状況について説明を受けたこと」の書面をとっておくことが必要です。

保証人の請求による賃貸人の情報提供義務

主債務者の委託を受けて保証人になった場合、保証人は賃貸人に対して賃借人の賃料遅滞状況や滞納額、支払期限を過ぎている債務などについて情報を求めることができ、賃貸人はこれに応じなければなりません。
義務違反に関する罰則規定はありませんが、正確に回答しなかった場合には損害賠償責任を問われる可能性があります。
この義務は個人保証であるか法人保証であるかを問わず、また、賃貸物件が事業用か居住用かを問いません。

期限の利益喪失についての情報提供義務

債務者が分割金の支払を遅延したときに、残額について一括払いの義務を負うことがあります。これを「期限の利益喪失」といいます。分割払いであれば各支払期日に間に合えば遅延損害金を負わない(期限の利益)ところ、一括払いに変容されてしまうと支払期日徒過後は残債務全額について遅延損害金が発生することになるのです。
賃貸借契約でも、賃貸人賃借人間において滞納賃料などについて分割払いにする合意がなされることがあります。もし賃借人が分割払いを怠り期限の利益が失われた場合には、遅延損害金が大きく膨みかねません。保証人としてはそのような事態を避けるべく、早期に支払を履行したいと考える場合が少なくありません。
 そこで、個人保証人の場合、債権者(賃貸人)は主債務者(賃借人)が期限の利益を喪失したことについて、これを知った時から2か月以内に保証人に通知しなければならないことになりました。

法改正の経過措置

 令和2年4月1日に改正民法は施行されていますが、施行日前後にわたって賃貸借契約が継続する場合の経過措置として、法務省は以下のように説示しています。

  • ① 施行日前に賃貸借契約および保証契約の更新が行われた場合
         →改正前の民法が適用されます。
  • ② 施行日前に締結された保証契約が賃貸借契約の更新後も保証する趣旨で締結され、保証については合意更新が行われない場合
         →改正前の民法が適用されます。
  • ③ 施行日以降に賃貸借契約の更新および保証契約の更新が行われた場合
         →改正民法が適用されます。

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