相続した不動産を売却したい | 京都の弁護士による不動産トラブル相談

大木祐二法律事務所

相続した不動産を売却したい

はじめに

 相続した不動産の活用方法としては、主に、売却する、他人に賃貸する、自身が利用する、の3パターンがありますが、特に複数の相続人がいる場合には、売却する方法が一 番すっきりするかもしれません。
 しかし、不動産が対象ともなると、売却も容易ではなく税金の心配もあります。このコラムでは相続不動産を売却する際の流れや注意事項、さらに譲渡所得税における相続不動産の3000万円の特別控除についても解説します。

不動産売却の流れ

⑴ 相続登記
まず、相続登記を

 相続した不動産の所有権登記名義が被相続人(故人)のままの場合、その状態では売却できません。売却前に必ず被相続人から相続人への所有権移転登記(相続登記)をしなければなりません。相続登記を経た相続人が不動産の売主として、以降手続を行っていきます。

相続登記の方法

 相続登記の方法としては次の2つがあります。

  • ①法定相続分の割合どおりで相続人全員の名義にする方法
  • ②相続人全員の協議によって法定相続分と異なった割合で相続人全員又は一部の者の名義にする方法

 ①の方法は、相続人の数が少なければよいのですが、多い場合には不向きです。その後の売却手続も全員で行う必要があり、多人数だと売却が事実上不可能に陥ってしまいかねません。
 ②は、遺産分割協議の終局的な内容として確定した場合はもちろん、売却の手続を簡素に進めるため、協議で相続人の一人を代表者として選んで「とりあえず」単独名義にした上で、不動産売却後にその売買代金を他の相続人に分けるための方法として利用されることがあります。
 ただし、この場合、その旨を遺産分割協議書にその旨を明記しておかないと、後の売買代金の分配が贈与として認定されて贈与税がかかってしまうおそれがありますので注意が必要です。
 いずれにしても、できるだけ早めに相続登記しておくべきです。相続登記をせず放置していると、その間にさらに相続が発生して相続人が増えれば、手続が煩雑になるだけではなく争いの火種も増えます。売却の予定の有無に関係なく、早めの相続登記をお勧めします。

⑵ 不動産価格の調査

 不動産仲介業者に依頼する場合でも、事前にご自身で不動産価格の調査を行いましょう。不当な低価格で買いたたかれないようにするという理由もありますが、売却後発生する諸費用や税負担の目安としても必要です。複数社に見積もりを依頼しておよその相場観を把握しましょう。より正確性を求めるときは不動産鑑定士に依頼する方法もあります。
 ここでの注意は、市場価格そのままを相続人間で分け合うわけではないという点です。売却代金から仲介手数料や税金などを差し引いた額が分け合う対象です。

⑶ 不動産会社との媒介契約

 知人や近隣住民など購入希望者がすでに存在する場合は、当事者間で購入条件などの具体的な交渉を進めればよいのですが、購入者が未定の場合は、不動産会社に依頼するのが一般的です。
 不動産会社との媒介契約には、一社のみに売却を任せる専属専任媒介契約、一社のみに任せるが売主自身が個人の購入者を探し出すことを妨げない専任媒介契約、複数社への依頼を許す一般媒介契約があります。たとえば専属専任媒介契約なのに好条件を示す他社に依頼した場合には違約金が発生します。どのタイプの媒介契約なのか確認することが重要です。

⑷ 不動産売買契約

 購入者が決まれば、いよいよ売買契約の締結です。不動産売買では、通常、売買代金や引渡時期などの契約内容を定めた契約書を交わします。契約書の作成は不動産会社が行うのが一般的ですが、可能であれば事前に契約書内容を弁護士などの専門家によってチェックしてもらうことをお勧めします。契約成立を目標とする不動産会社とは異なる視点からのアドバイスが、将来起こり得るトラブル防止に役立つはずです。
 契約締結時には重要事項の説明を受けた売主買主双方が契約書に署名・押印して契約を締結します。その際、手付金が授受されることが一般的です。そして決められた期日に買主からは残代金の支払、売主からは不動産の引渡しおよび所有権の移転登記がなされて契約の手続は終了です。

⑸ 不動産売却にかかる費用

 不動産売却に要する費用には次のようなものがあります。

  • ・相続登記のための登録免許税
  • ・相続登記を司法書士に依頼した場合にはその報酬
  • ・契約書の収入印紙代
  • ・売却によって得た利益についての譲渡所得税
  • ・不動産会社への仲介手数料

譲渡所得税

⑴ 譲渡所得税の計算

 不動産売却に要する費用のうち大きく占めるのが譲渡所得税です。
譲渡所得税は課税譲渡所得額に税率をかけたものです。

課税譲渡所得額の計算

譲渡収入金額-(取得費+譲渡費用)=譲渡所得額
譲渡所得額-特別控除額=課税譲渡所得
  • ・「収入金額」とは、不動産を売ったときの金額
  • ・「取得費」とは、不動産を買ったときの金額
  • ・「特別控除」とは課税譲渡所得から、特別に〇円差し引いて良いという仕組みのことです。この特別控除に、相続不動産についての3000万円控除があります。詳細は⑵で説明します。
  • ・「譲渡費用」とは、売ったときの費用。不動産登記費用、仲介手数料、測量費などがこれにあたります。

 相続の場合には被相続人が当該不動産を買ったときの金額を明らかにするため売買契約書があればそれを証明しやすいのですが、これがなく、他に金額を証明する方法がない場合は、今回の売却価格の5%を取得費として計算することになります。

譲渡所得税率

所得税 住民税 復興特別所得税
長期譲渡所得(所有期間が5年を超える) 15% 5% 0.63%
短期譲渡所得 (所有期間が5年以下) 30% 9% 0.315%
⑵ 相続不動産の特別控除

 被相続人の居住の用に供されていた家屋およびその敷地を相続して、令和5年12月31日までにこれらを譲渡した場合、一定の要件を満たせば3,000万円特別控除の適用を受けることができます。

家屋
  • ・相続開始直前に、被相続人が居住していた家屋である
  • ・相続開始直前、被相続人以外に居住者がいない
  • ・昭和56年5月31日以前に建築された家屋(区分所有建物を除く)である
  • ・家屋を譲渡する場合(敷地と共に譲渡する場合も含む)、譲渡時における耐震基準に適合する家屋である
土地
  • ・相続開始直前に、被相続人居住用家屋の敷地であった土地である
家屋土地共通
  • ・相続時から譲渡時まで、事業、貸付、居住のいずれにも供されていない
  • ・相続日から起算して3年を経過する日の属する年の12月31日まで、かつ、平成28年4月1日から令和5年12月31日までの譲渡であること
  • ・譲渡価額が1億円以下であること

 以上の要件を満たす場合には、特別控除が認められて大幅な節税になるはずです。

まとめ

 不動産の相続から始まって、相続登記、売却、納税、代金分配まで多くの行程を経る必要があります。このような手間をかけても現実に売却できればよいですが、道路に面していない袋地や山奥の土地など売却困難な不動産もあります。だからといって放置しておくと相続関係がより複雑化するうえ、固定資産税の負担も無視できません。
 いずれにしても、不動産を相続した場合には早めに動き出すことが重要です。今後の見通しや選びうる手段も含めて、一度弁護士に相談することをお勧めします。

不動産のご相談は不動産問題に経験豊富な弁護士へ

大木祐二法律事務所

まずはお気軽に、お問い合わせください。

30分間の無料相談実施中

075-257-2520

平日 9:00〜20:00 土日祝対応