相続登記が長期間放置されていた場合 | 京都の弁護士による不動産トラブル相談

大木祐二法律事務所

相続登記が長期間放置されていた場合

不動産登記未了の原因

 不動産登記が被相続人名義のままというのは、よくあります。考えられる理由としては次のようなものがあります。

遺産分割協議が成立しない

 相続によって不動産の被相続人の名義を変更する(「相続登記」といいます。)には相続人全員の同意と印鑑証明書が必要です。
 しかし、相続人の一人が行方不明、あるいは認知症で協議ができない場合、さらに協議は行うものの話合いがまとまらない場合には相続登記手続をすることが困難となります。

コストがかかる

 相続登記するには特別な資格は不要で相続人自ら行うことができますが、実際には専門的な知識が必要で手間もかかります。そこで、弁護士、司法書士に依頼することになりますが、通常5万円以上の費用を要します。
 また、法務局への登記申請自体にも、専門家への手続費用とは別途の費用がかかります。相続登記の場合の登録免許税(登記申請手数料のこと)は固定資産評価額の0.4%です。
 これらの費用負担については将来不動産を売却するときに一度に済ませようと相続人が考えるのも致し方ないところです。そして、相続登記をしないことについてのペナルティもないため、結果として不動産登記名義が被相続人のままとなるのです。

不動産登記未了のデメリット

 相続登記をせずに長期間放置していると、次のようなデメリットがあります。

相続人がどんどん増える

 相続登記未了のまま長期間放置している間に、二次、三次相続と多くの世代をまたいで相続が発生すればそれだけ相続人の数も増えていきます。遺産分割協議は相続人全員で行うのが原則ですが、相続人が多人数の場合、全員が協議に参加することはおろか、連絡をとることさえ難しい事態も起こりえます。
 また、人数が増えると被相続人との関係を証明する戸籍謄本など必要な書類の数も増えることになり、コストや手間がさらに増大してしまいます。

災害保険金や損害賠償金を受け取れないおそれ

 相続不動産が火災などに見舞われた場合、たとえ相続人が保険金を払い続けていたとしても、相続登記未了を理由に保険金の支払を拒まれるおそれがあります。
 また、平成23年東日本大震災の東京電力による原発事故に関する損害賠償においても、登記簿上の名義人を基準に賠償が行われました。最終的には相続登記未了の持主にも賠償が行われましたが、事故発生から2年以上も要しています。賠償金や保険金は被害があったらすぐに受け取りたい金銭であり、相続登記未了はスムーズな受取りを妨げる可能性があるのです。

相続登記するメリット

 では、多少なりともコストや手間をかけて相続登記するメリットはどのようなものでしょうか?

公示力

 登記には「公示力」が認められています。公示力とは、わかりやすく言うと「今、誰が所有しているのか」、「誰が抵当権をつけているのか」などを外観できる状態にして第三者に知らしめることです。
 売買による所有権移転や抵当権設定を物権変動と言います。日本の民法では当事者の合意(意思表示)だけで物権変動が生じます。しかし、第三者からは分かりにくいため、この動きを登記に記録することで不動産を取り巻く権利関係を明らかにするのが公示力です。

対抗力

 登記に公示力が認められる結果、不動産に関する物権(所有権や抵当権など)は登記によって優劣が決まります。つまり「早い者勝ち」です。登記を経た名義人は第三者に自己の権利を主張できることになり、これを対抗力と言います。
 遺言や遺産分割などによって法定相続分を超えて取得することになった相続人は、その超える部分について相続登記をしておけば、共同相続人からその部分を譲り受けた第三者に対抗できます。逆に相続登記をしておかなければ、たとえばその部分について差押をしてきた共同相続人の債権者には対抗できません(令和元年改正民法899条の2)。このようなことから第三者との関係で自己の権利を主張するには対抗要件としての登記が不可欠なのです。
 なお、法定相続分については相続開始と同時に被相続人から相続人へとダイレクトに承継されます。そこに当の相続人以外の第三者が介入する余地がなく対抗問題は発生しません。したがって、法定相続分に関しては第三者が権利を主張してきたとしても、ただの無権利者であり、登記なくして所有権を主張できます。

相続登記の義務化に関連する法改正

 登記に公示力や対抗力という強い効力が認められていても、多くの相続登記が行われず長期間放置されているのが現状です。そこで、国は公共事業や都市部の再開発の妨げとなる所有者不明の土地の発生を防いで土地の有効利用を図るべく、近時法改正を行いました。所有者が分からない土地の問題を解消するための関連法案(民法及び不動産登記法の改正に関するもの)が令和3年4月21日の参院本会議で可決、成立し、令和6年をめどに施行される予定です。
 主な内容は以下のとおりです。

相続登記の義務化

 相続人は、被相続人が亡くなったことを知り、かつ、その不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記をすることが義務付けられました。遺産分割で法定相続分を超える所有権を取得した相続人は、遺産分割から3年以内に相続登記をしなければなりません。

罰則

 正当な理由なく相続登記を怠った場合は10万円以下の過料に処せられます。

相続申告登記(仮称)の創設

 相続登記の義務を負う者は、3か月以内に不動産について相続が開始したことおよび自らが当該不動産の相続人である旨を不動産所在の法務局に申し出をすれば、相続登記を履行したものとみなす規定も創設されています。

法定相続分での相続登記後の登記の簡略化

 法定相続分に従って共同相続人による不動産を共有する相続登記がなされた後に、一部の相続人が遺産分割や他の相続人による相続放棄、特定財産承継遺言、相続人への遺贈を原因として所有権を取得した場合は、従来の譲渡人と譲受人による共同申請による所有権移転登記を改め、登記権利者(所有権を取得する者)が単独で申請することができることになります。

土地所有権放棄の制度化

 一定の要件を満たす土地の相続人が、法務大臣に対してその所有権を国庫に帰属させることへの承認を求めることができるようになります。

まとめ

 令和6年には土地の相続登記が義務付けられます。「そのときになってから」と座視していると相続人がさらに増えるかもしれません。相続人の増加は、相続登記の前提となる遺産分割協議をより困難にするおそれがあります。「協議は成立したがその後始末がわからない」「協議が難航している」「相続人に行方不明者や認知症の方がいる」などの諸問題についてはさまざまな方策があります。お困りの場合はぜひ弁護士にご相談ください。

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