不動産売買
建築トラブルとは、建造物の新築や増改築、内装工事などの過程において業者と発注者や買主、時には近隣住民などとの間で生じるトラブルのことです。
一口に「建築トラブル」と言っても、さまざまなものがあります。
建築トラブルには、大きくは、建造物自体に関するもの、契約の履行に関するもの、近隣に関するものの3種類があります。
雨漏りや基礎の亀裂など、本来持つべき建造物の性能を欠いている場合です。原因究明と補修方法の選択が主題となります。
キズや若干の傾き、仕上げの不良など、人によっては「瑕疵」なのか「許容範囲内」なのか評価が分かれるものです。「誰」の「いかなる基準」で判断するかが大きな問題になります。
容積率オーバーや2メートル以上の接道義務違反、耐震基準未満など、法律による規制が守られていない場合です。対象となる法律の解釈および適用が問題となります。
契約上、特別に当事者が合意を交わした内容が実現されていない場合です。たとえば居住するには問題ないが、アップグレードを施すよう約束した箇所が実際にはなされていないといった事案です。ここでは合意の有無や内容の特定性が問題となるため、契約書や打ち合わせ記録などを中心に調べることになります。
「建築物を建造して人が住む」という状態に至るまでには、関係者の間で多くの契約が交わされます。たとえば、施主と施工業者との請負契約、施工業者とさらに個々の専門業者との下請け契約、建売建造物を購入する場合の施工業者と買主の売買契約などがあります。
請負契約では注文者は代金支払義務、請負人は仕事完成義務を負います。売買契約では、買主は代金支払義務、売主は目的物の引渡義務を負います。それぞれの義務について個別の特約がある場合にはそれに従いますが、特約がない場合にはその義務の処理が問題になることがあります。建造物をめぐっては売買契約と請負契約の両面を有した内容の契約が多くありますが、法律上両契約の扱いが異なるからです。たとえば契約途中の解除やそれに伴う代金支払、不可抗力によって建造物が滅失した場合など、法律上、請負と売買とでは異なる扱いがなされています。
契約上の問題が生じた場合には特約の有無を調べると同時に、どういった性質の契約かを検討する必要があります。
建設工事中の振動や騒音、境界線ギリギリの建築物建造、建設工事のために必要な隣地への立入りなど、契約当事者以外の第三者への対応が必要になるトラブルです。
民法や騒音規制法、建築基準法など法律による各種規制がありますが、「法律が認めているのだから」と強硬な姿勢で臨んでは、その後の日常生活に支障をきたすおそれがあります。工事前に近隣建物の状態を写真に撮るなどして記録し、工事工程や内容を丁寧に説明した上で、必要であれば償金を支払うなどの柔軟な対応が必要です。
建築トラブルが発生した場合にすぐに訴訟を提起するケースはめずらしく、通常は居住者側と業者側とで話し合い、修補工事の内容について任意の合意を行って解決の糸口を探るパターンが多いと思われます。
話合いによる解決は、訴訟などによる紛争解決手段と比べると時間やコストの面で、一見有利とも思われます。しかし、補修内容について居住者側の希望と業者側の提示するものが著しく乖離しており、結局訴訟に発展してしまうことはよくあります。また、一旦は交渉がまとまり修補工事が完了したものの、後日同様の不具合が発生して、トラブルがより深刻化するケースも少なくありません。
やはり、事前に第三者である建築士に調査を依頼し、得られた結果をもとに建築トラブルに詳しい弁護士を交えて交渉を行うのが賢明です。手間やコストがかかるのは否めませんが、不具合の再発防止に役立ち、相互の納得が得られれば訴訟に発展するというリスクも回避できるはずです。
交渉がまとまらない、または相手が任意交渉に応じないといった場合には、紛争解決機関を利用して解決を図ることになります。
紛争解決機関には、大きく分けて次の5つがあります。
建設業法に基づき、国土交通省および各都道府県に設置されている裁判外紛争処理機関(ADR)です。
対象となるのは建設工事の請負契約に関する紛争に限定され、建売住宅の売買当事者間の紛争は含まれません。
品確法に基づき国土交通大臣が指定する機関で、全国の各弁護士会などに設置されています。紛争処理委員として弁護士と建築士が関与し、斡旋・調停・仲裁手続を行います。
対象となるのは評価住宅と保険付き住宅ですが、該当する住宅であっても、近隣関係や賃貸借に関する紛争については取り扱われていません。
各弁護士会が設けている裁判外紛争処理機関(ADR)です。
対象となる紛争にはとくに限定はなく、比較的低額な手数料で利用でき、平日以外の期日を設けることもできる柔軟な手続です。弁護士会の仲介手続によって得られた仲裁判断には確定判決と同一の効力が認められ、原則として不服申立てはできません。
対象となる紛争には制限はなく、調停委員に建築家などの専門家が指定された場合には、専門知識を活用した紛争処理が期待できます。
ただし、調停は当事者の合意を目指す以上、請求額が多額であるなどの理由で対立が激しい場合には不向きといえます。
当事者の話合いでは解決が困難な場合、訴訟を選択することになります。
一般に訴訟は時間がかかり、特に建築関係事件は長期化必至というイメージがありますが、平成13年の建築関係訴訟委員会発足後は、地方裁判所のうち東京・大阪には建築紛争を扱う建築専門部が、また、大規模庁には建築集中部があり、精力的に計画審理が行われています。また、実際には判決までは待たずに、任意の支払いを得やすい和解で裁判を終えることも可能です。
話合いが決裂したとしても訴訟による解決を悲観する必要はなく、むしろ被害回復の強力な手段として肯定的に捉えてよいでしょう。
建物の建築には多額の費用がかかり、その上欠陥があったということになれば怒りや落胆にも大きなものがあるでしょう。建築トラブルの解決には建築・法律の専門的な知識だけではなく丁寧な調査や粘り強い交渉力が必要であり、個人では対応困難です。弁護士がより効果的にサポーターできるように、ご相談の際には、必要に応じて写真や図面、契約書などをご準備ください。