不動産売買
任意売却とは、借入金の担保のために不動産に抵当権が設定されている場合、債務者が借入金の返済ができなくなったときに、抵当権者の同意を得て、その不動産を市場で売却する方法です。
不動産に抵当権が設定されている借金の弁済ができなくなった場合に行われる手 続としては、ほかに強制競売があります。
以下、任意売却と強制競売の異同を簡単に表にまとめました。
任意売却 | 強制競売 | |
手続開始を主導する者 | 債務者 | 債権者 |
手続開始にあたって相手(債権者・債務者)の同意 | 債権者の同意が必要 | 債務者の同意は不要 |
手続を行う者 | 債務者と購入者(通常の不動産売買と同じ) | 裁判所 |
手続の公知性 | 任意売却に関わる関係者のみが知る | 新聞やインターネット(写真付き)に情報が掲載 |
手続に要する期間 | 買い手や不動産の条件次第 ただし早期に「売り切る」必要があり、通常売買よりも短期間の傾向 |
3~6か月 |
価格 | 市場価格に近い額 (期間が限られるため市価より低くなる傾向) |
市場価格の3~5割減 |
代金から債務者への資金分配 | 債権者の同意のもと、債務者の引越し費用や仲介手数料等の資金分配が可能 | なし |
手続終了後の債務者 | 購入者との話合いで次のことを決められる ・引越しや引渡しのタイミング ・売却後も賃貸借で住み続ける(リースバック) |
裁判所の引渡し命令により退去するのみ |
このように、債務者にとっては任意売却が強制競売よりも有利であることがわかります。
強制競売と比べてメリットの多い任意売却ですが、債務者が希望すればいつでも開始できるわけではありません。
任意売却の条件として債権者の同意が不可欠ですが、ローン支払が順調になされている場合には債権者にとって任意売却に応じるメリットがありません。債権者が任意売却に応じるのは「代位弁済」が行われた場合と、「期限の利益が喪失」した場合です。
住宅ローンを組む際、将来的に債務者がローンを支払えなくなった場合に備えて、多くの場合、保証会社による保証が行われます。通常、債務者が3~6回分の滞納をすると、保証会社が借入先(金融機関)に残債務を一括弁済して、銀行などに代わって債権者になります(代位弁済)。
債権者として新しく入れ替わった保証会社が、たびたび支払を滞納する債務者から効率よく債権回収を行おうとする場合、任意売却に応じるメリットが生じるのです。
契約内容にもよりますが、保証会社がついていない場合でも、3~6回分滞納すると、債権者はそのままで、債務者は「期限の利益」を喪失します。分割払いの場合、残債務がいくらであっても毎回の支払期日に定額を弁済すればよい(期限の利益)のですが、何度も支払を怠る債務者には期限の利益を与える必要がなく、残債務全額について一括払いを求めることができます。
やはりたびたび滞納する相手に債権回収をはかるには、任意売却の方法が合理的になるのです。
代位弁済や期限の利益喪失が発生すると、債権者から一括請求書が届きます。債権者にとって任意売却による債権回収が視野に入るこの時点を目安に、債務者としても任意売却に向けて動き出すのが一般的です。仮に強制競売となった場合でも、一括請求から実際の競売手続が始まるまで半年ほど猶予があります。その間、任意売却に必要な調査や宣伝を行えばよいことになります。
ただし、これよりも前であったとしても、将来的にも返済できる見込みがなくなった時点で、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。時間的な余裕は、入念な事前準備や、売却の条件も有利に選択できるという利点があります。また、実際に返済が不可能なのかを第三者が客観的に判断することも必要です。
債権者は、競売手続の入札期日の前日まで競売の取下げができます。すなわち法律的には、債務者はこの日まで任意売却を申し出ることが可能です。
しかし、このような土壇場になって不確定要素が多い任意売却に素直に応じる債権者は、まずいません。したがって、実際には入札期日の前日までに任意売却が「終了している」ことが必要です。遅くとも競売開始決定通知書が届く頃には、任意売却に向けてスタートしておくべきでしょう。この通知書が届いてから入札期日まで2~4か月あります。その間に任意売却をなんとか終了させていれば、債権者に競売を取り下げてもらうことができます。
任意売却は通常の不動産売買と変わらないことから、不動産業者を利用することが一般的です。しかし、任意売却をあえて弁護士に任せるべき場合があります。債務整理が必要な場合です。
債務整理とは借金を減額したり免除したりすることができる手続で、任意整理、個人再生、自己破産があります。
不動産ローン以外にも多額の借金があり、不動産を売却しただけでは総合的な解決にならない場合には、任意売却以外にも債務整理を検討しなければなりません。任意整理、個人再生、自己破産はそれぞれ要件や手続が異なり、債務者によってどの方法がベストかを弁護士が判断します。
また、状況次第では債務整理のみ提案して、任意売却を選択しないこともあります。その結果、いきなり不動産業者に依頼する場合と違ってマイホームを手放さなくて済むかもしれません。
債務整理が必要でない場合にも、任意売却を弁護士に依頼するメリットには以下のようなものがあります。
売却自体は不動産業者が行いますが、弁護士であれば売却前後のケアを期待することができるのです。
競売よりも任意売却の方が債務者にとっては有利です。住宅ローンの支払に行き詰ったら任意売却を検討することをお勧めします。そしてスムーズな任意売却や借金問題の総合的な解決をお望みの方は、一度弁護士にご相談ください。