賃貸人様(貸主)
期間が満了しても当然には契約は終了せず、契約を更新するかどうかが問題となります。
期間がない以上その満了というものもなく、したがって更新もありません。終了させるために行うのは解約の申入れです。
期間満了によって契約が終了するため更新はありません。
更新には合意更新、自動更新、法定更新があります。各更新の注意点を解説していきます。
当事者の合意による賃貸借契約の更新で、契約の条件を再度自由に決めることができます。
ただし、更新後の契約期間については以下の注意が必要です。
1年未満の期間を定めると、期間の定めのないものとして扱われます(借地借家法29条1項)。期間の定めのない建物賃貸借では当事者はいつでも解約申入れをすることができ、賃貸人からの場合は申入れから6か月後(同法27条1項)、賃借人からの場合は3か月後に契約が終了します(民法617条1項2号)。
ただし、賃貸人からの解約申入れには正当事由(詳細は下の「法定更新」にて説明します。)が必要とされており、正当事由がなければ契約は終了しません(借地借家法28条)。
堅固建物は30年以上、非堅固建物は20年以上としなければなりません(借地法5条1項)。
1回目の更新は20年以上、2回目以降の更新は10年以上としなければなりません(借地借家法4条)。
契約書に「当事者が、期間満了の〇ケ月前までに相手方に対して契約を終了させる旨の通知をしない限り、本契約は同一条件で更新されるものとし、以後同様とする。」というような自動更新特約条項を入れることがあります。
自動更新特約は賃借人を特に不利に扱うものではない限り有効ですが、当事者が合意することなく更新するという点で次に説明する法定更新と共通しており、両者は混同されがちです。
しかし、更新後の契約期間に差異が生じる点に注意が必要です。
すなわち、自動更新では条項に更新後の期間の定めがあるときはその定めに従うことになるのに対して、法定更新では借地借家法や借地法に従って決まります。この差異を明確に理解した上で、最初の契約書作成時に更新後も見据えて自動更新にするか、あるいは法定更新に任せるかを選択する必要があります。
当事者の合意に基づかず、法律に従って契約期間が更新されるものです。合意更新、自動更新されない場合でも、一定の条件を満たす場合にはこの法定更新によって契約が更新されます。
次のいずれかに該当する場合に法定更新が生じます。
期間の定めがないものとされ(同法26条1項但書、2項但書)、解約申入れがあるまで契約が存続します。
賃借人はそれまで生活やビジネスの拠点としていた賃貸建物からの収去を余儀なくされるわけですから、賃貸人側からの更新拒絶には「正当事由」が必要です(同法28条)。
「正当事由」について、裁判所は以下のような枠組みで判断しています。
基本的には⒜を中心に判断し、それでも甲乙つけがたい場合には補充的に⒝も合わせて判断するという手順です。
もっとも、実際には⒜の判断では賃貸人の必要性が賃借人のそれを明らかに上回る場合でないとクリアできず、補充的な⒝の判断で解決が図られることになります。そのため多くの裁判例では、立退料を支払わなければ正当事由が肯定されないのが実情です。
契約期間満了後も賃借人が使用を継続している場合に、賃貸人が遅滞なく異議を述べない場合には法定更新の効果が生じます。
また、上記の更新拒絶に正当事由があって拒絶が有効となる場合、期間満了時点で賃貸借契約は一旦終了しますが、賃借人がそのまま使用を継続して賃貸人が異議を述べない場合には、結局法定更新となってしまい、賃貸借が復活することになります。
・「遅滞なく」
「遅滞なく」とは、賃貸人側で更新するかどうかを判断するのに必要な期間を想定すればよく、一般的には期間満了後1週間程度とされています。したがって、賃貸人側が更新しない方向を決めているのであれば、満了後は直ちに異議を伝えることが重要です。通知方法は後日トラブル防止のため、「更新しない」「立ち退きを求める」旨を明記した内容証明郵便を利用するのが賢明です。
・「異議」
異議には更新拒絶の場合と同様、正当事由の存在が必要です。
また、賃借人から更新請求があった後に、何ら留保なく賃料を受け取ると、更新請求に異議がないものとみなされるおそれがあります。その場合は更新に異議があることを伝えるとともに、賃料ではなく「賃料相当損害金」として受け取ることを明示する必要があります。
次のいずれかに該当する場合に法定更新が生じます。
前賃貸借と同じ内容で契約が更新されることになります(借地借家法5条)。
賃借人が更新請求をしたり期間満了後も使用を継続していたりするのに対して、賃貸人が「遅滞なく異議」を述べた場合には、法定更新されません。
合意更新や自動更新では当事者の合意や特約条項に従って賃貸人は更新料の請求ができますが、法定更新では請求できるのかがよく問題となります。
この点、平成23年7月15日の最高裁判決では、「本件賃貸借契約を更新するときは、これが法定更新であるか、合意更新であるかにかかわりなく、1年経過するごとに、賃貸人に対し、更新料として賃料の2か月分を支払わなければならない」との条項が記載されている場合において、更新料の支払いを肯定しています。
この判例に従えば、賃貸借契約書に「法定更新であるか合意更新であるかに関わりなく、更新料として賃料の〇カ月分を支払う。」と明記されておれば、賃貸人は更新料の支払いを請求することができると考えられます。今一度、契約書をご確認ください。
賃貸借契約の更新については、更新の種類やその要件、さらに更新料など多くの問題があります。これらに適切に対処するには時間の余裕と専門的な知識が不可欠です。更新に関してご不明な点がありましたら、当事務所までご相談ください。