賃貸人様(貸主)
不動産公正取引協議会連合会の定める「不動産の表示に関する公正競争規約施行規則」では、「共益費」とは、「借家人が共同して使用又は利用する設備又は施設の運営及び維持に関する費用」と定義付けられています。
共益費の具体的な内容としては、以下のものがあります。
これに対して、「管理費」とは、前記施行規則によりますと、「マンションの事務を処理し、設備その他共用部分の維持及び管理をするために必要とされる費用をいい、共用部分の公租公課等を含み、修繕積立金を含まない」とされています。
両者を比べると「共益費」よりも「管理費」の方が若干広いニュアンスを持ちますが、内容的に大差なく、オーナーや管理会社(以下、管理者側と言います。)がどちらを用いるかの問題に過ぎません。したがって両方を徴収することはできません。
共益費について直接定めた民法上の規定はありませんが、民法306条および307条で共益費用についての先取特権が認められています。したがって、契約自由の原則の下、当事者間における約定が共益費の法的根拠になります。
また、共益費は共用部分の使用の対価であることから、実質的な賃料としての性質をも
つという考え方が一般的です。もっとも、シェアハウスや管理者側が電気・水道など一括供給契約を締結している場合には、水道代、光熱費、冷暖房費、清掃衛生費など、賃貸物そのものではないがそれに付加する物の使用対価としての性質を有する場合もあります。
共益費金額の定め方については特に決まりはなく、分譲マンションであれば1坪当たりいくらというように機械的に算出されることが多いようです。
賃貸マンションでは、エレベーターのある場合は共益費が高くなる傾向があり、家賃の7~10%ほどになるのが一般的です。新築物件についても共益費が高く設定される傾向です。これに対して、賃貸アパートでは、マンションよりも共用部分が少ないことから共益費も低く設定され、家賃の5~10%程度です。
ただしこれらの数値は一応の目安に過ぎず、いかなる費用を共益費に含めるのかは共益費の性質(付加使用料を含むのかなど)によって大きく左右されます。
ここで注意すべきなのは、実態とかけ離れた共益費の徴収は争いの原因となるという点です。
賃貸借経営上、実際に発生する共益費を上回る金額を「共益費」という名目で徴収し、その差益を得ているケースがしばしば見受けられます。徴収した共益費をいつ、どのように使うかは原則として管理者側の裁量に任せられていますが、実態にそぐわない共益費の徴収は、支払った側からすれば「法律上根拠のない」利得であり、民法703条の不当利得返還請求されるおそれがあるのです。しかも賃借人が個人である場合には消費者契約法の手厚い保護が及ぶ可能性もあります。
共益費の金額が妥当なものかどうか、今一度確認することをお勧めします。
共益費は賃料と共に月1回の支払いが一般的ですが、管理者側が了解すれば数か月まとめて先払いも可能です。支払い方法も決まりはありませんが、口座引き落としであれば滞納の危険を減少させることができます。
共益費は水道代や光熱費、浄化槽の保守点検代などを賄っており、滞納が原因でこれらの利用が制限された場合には入居者全体にも影響を及ぼしかねません。また滞納が長引く者については他の賃借人が気付くおそれがあり、賃借人同士の不公平感が生じてしまいます。
そこで、共益費を支払わない賃借人に対してどのような対応策があるかについて解説します。
あらかじめ共益費の約定に滞納した場合の遅延損害金の定めを設ける方法があります。共益費の遅延損害金については 利息制限法 による規制は及ばないため、同法の利率を超える遅延損害金の定めを置くことが可能です。
ただし、高すぎる利率は公序良俗違反を問われる可能性があります。一般的には年10%、14%、14.6%、15%、18%、18.25%のいずれかの利率を採用するケースが多いようです。共益費は他の支払いより後回しにされがちなため、高めの利率を設定することで、支払いに向けて心理的圧力をかけるといった工夫が必要です。
共益費を滞納している賃借人に対しては直接訪問する、あるいは書面を送付するなどして、滞納共益費を請求します。うっかり忘れていた賃借人であれば、それだけで支払うこともあるでしょう。また、管理者側の名前では無視していたものの、弁護士の名前を見た途端、法的措置の可能性を感じ取って支払いに応じる場合もあります。
それでもなお支払いがなされない場合には、裁判所による手続きを利用することになります。滞納共益費を回収する手続きとしては、支払督促 、少額訴訟 、民事調停 そして通常訴訟があります。
債権者の申立てを受けた裁判所が債務者(滞納者)に対して支払いを命じる督促状を送付する手続きです。通常訴訟と比べて迅速で安価であることが特徴ですが、債務者から異議があった場合には通常訴訟へと移ります。
60万円以下の金銭の支払いを目的とする訴えについて原則として1回の審理で決着をつける訴訟手続きです。採用できる証拠に制約があり、また相手が通常訴訟を希望すれば利用できないという制限もあります。
合意できることを前提にした当事者による話し合いです。
最も強力で確実性のある債権回収方法ですが、最も時間と費用がかかる方法でもあります。判決まで待たずに審理の途中で和解をすることが可能です。
いずれの方法をとるかは、金額、相手の対応、証拠の内容などに照らして総合的に判断します。そして、実際に回収するにはこれら結果(債務名義)を得て強制執行に及ぶことになります。
共益費の支払いが賃貸借契約の内容となっている場合にはもちろん、半年以上にわたって共益費の滞納が続いた場合には、信頼関係が破壊されたことを理由に賃貸借契約を解除することができます。
解除後も居住を続けている場合には賃料のみならず共益費相当分についても損害賠償請求ができます。その際には、解除の意思表示がわかる文書などの証拠を残しておくことが重要となります。
共益費は定期給付債権にあたり、債権者が権利を行使することができることを知った時、つまり共益費支払い日を徒過したときから5年で時効消滅します(民法166条1項1号)。常習的にではないが過去に何度か滞納しているという賃借人に対しては注意が必要です。
また滞納者が複数存在するという場合には、全員まとめて訴えるということも可能です。
賃借人による共益費の滞納でお困りのオーナー様や管理会社の方は、一度弁護士にご相談ください。